ダイバーシティ推進と企業の財務成功:なぜ多様性がビジネスに不可欠なのか

第6回 企業における「ダイバーシティ」のリアル:多様性を増やせばいいってもんじゃない - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)コラム

本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから第6回企業における「ダイバーシティ」のリアル:多様性を増やせばいいってもんじゃない、より転載を行っております。*


今日は、あるチーム内で実際に起こったダイアローグの引用から始めます。

Aさん「いよいようちのチームもコスト削減の施策を何らかの形で考えなければならない局面に差し掛かりました」

Bさん「会社は新しいことにチャレンジすると言いながら、うちのチームの業務負担は増えるばかりだし、前の仕事も引き続きやりながら、新しい仕事がその上に乗っかってくるだけ。経費削減で、ましてやチームの人数を縮小するなんて、考えられるわけありませんよ」

Cさん「確かに前から取り組んできたものを、すべて踏襲し維持しながら、単純に業務だけ増やせば、負担が増えるのは容易に想像がつきますね。では、もしこれを、チームが最大価値を生み出せることだけにフォーカスすることを考えるきっかけと捉えるのであれば、何が起こるでしょうか。続けるべきものもある中で、捨てるべきもの、辞めるべきもの、変えるべきものはないでしょうか」

Aさん「なるほど、そうですね。こういう機会がないと、実際には今までのやり方を変えて何かをさらに生み出そうというモチベーションや、私たちチームの本質的な存在意義の見直しなど、なかなか着手できませんよね」

Bさん「お二人が言っていることは頭では理解できますが、人の心はそう簡単に切り替えられるでしょうか。この有事を好機と捉えて、ポジティブなメッセージだけで引導するとすれば、チームメンバーの中には反発する人も出てくると思います。だからこそ、ロジカルに頭に訴えかけるメッセージだけではなく、彼らの心に訴えかけるメッセージや伝え方も大切だと思います」

Cさん「そこは確かに私の視点では欠けている部分ですね。そうするとこの3人のリーダーの間では、我々チームの存在意義と価値貢献について本質的な議論や見直しをするのには、良いタイミングと捉えつつ、痛みを伴う変革をチームメンバーにも理解してもらった上で実際のアクションに着手できるように、彼らへの感謝の念を忘れずにメッセージに盛り込むというのは、いかがでしょうか」

Bさん「それは良い案ですね。賛成です」

Aさん「私も同感です」

真の「ダイバーシティ」は少数派カテゴリーの人数比率を増やすことが目的ではない

今日は昨今の企業や経営を語る上では、耳にしないことがないキーワード「ダイバーシティ」の真意に迫ります。かつて日本企業では、年功序列や終身雇用を中心に、画一的な働き方や男性を中心とした就労人口比を特徴としていました。その後女性の社会進出や男女共同参画などの国際的な流れが後押しし、まずは女性の活躍という視点から、「より多様な人材の活用」が「ダイバーシティ」の主なテーマであったのです。

2004年に経済同友会が人事戦略として「ダイバーシティ」の大切さを提議したことを皮切りに、現代に至っては、「ダイバーシティ」のテーマは、いかに多様な人材を活かし、能力が最大限発揮できる機会を提供してイノベーションを起こす経営を実行するか、に移行しています。

これは、ひとえに日本における労働人口の減少や、私たちの働くことへの価値観の変化や多様化、顧客ニーズの多様化と国を超えたボーダーレスな国際化など、時代や社会の市況が大きく転換していることと相関しています。平たく言えば全員参加型社会の実現を目指して、企業を含めて社会全体で「ダイバーシティ」に注目が集まっているのも、なるほど、頷けます。

ただし、「ダイバーシティ」の重要性について声高に言われるものの、他方で「ダイバーシティ」の取り組み自体は、まだまだ多様性のカテゴリーのうち、比較的該当者が少数であるカテゴリーの組織における占有比率を上げることが目的となってしまっている企業の取り組みも、多く見られます。例として、女性管理職の比率を202〇年までに△%まで引き上げる、であったり、障碍者の法的雇用率を守るために障碍者枠で〇人採用する、といった取り組みです。

取り組み自体は、一つひとつ大切なものではありますが、それらはあくまでも方法論:HOW論であり、なぜ組織に多様性を増やすことが必要であるのか:WHY論や、それによって何を成し遂げようとしているのかの経営ミッションや事業ビジョン:WHAT論が、すっかり抜け落ちているのに、HOW論が目的にすり替わっているケースもあります。

もし経営者の皆さんや皆さんの組織で、「ダイバーシティ」の推進を検討されている、または、推進をすでに行っているが、どうも企業文化として根付かない、または、多くの社員にとっては他人事のように捉えられており、一部の志が高いメンバーだけが声高に「ダイバーシティ」の重要性を訴えかけ、しまいには、周りの関心や協力が得られずに、勢いよくスタートを切った取り組みも、次第に尻すぼみになってしまうことはないでしょうか。

「ダイバーシティ」の普及にいち早く経営課題として取り組んだカルビー社では、経営リーダートップ自らが「ダイバーシティ」指標を到達することが、経営目標に直結しているかを、繰り返しリーダー・メッセージでも伝えていますし、各事業部のリーダーたちには、到達目標へのコミットメントを宣言してもらうなど、先のWHYとWHATがありきで、HOWである女性活躍の場を設けることや、働き方改革等に着手している様子が窺えます。

「ダイバーシティ」を強力に推進&実装できている企業は財務結果も優れているという結論

それでは「ダイバーシティ」について、企業が全社を揚げて取り組むWHYとは何か。米国コンサルティング会社である、マッキンゼー・アンド・カンパニーは「ダイバーシティ」に関するレポートを例年発表しています。

そこには業界横断的に選ばれた約360社を対象にした調査結果を元に作成されており、特にその中で着目すべきは、「ダイバーシティ」と企業の財務業績との相関関係です。以下の8点について、明白な関係性を明らかにしています:

  1. 人種・民族的多様性において、上位25%以内に入る企業は、当該業界の中央値よりも30%以上財務パフォーマンスが高い傾向にある
  2. 性別の多様性において上位25%以内に入る企業は、当該業界の中央値よりも15%以上財務パフォーマンスが高い傾向にある
  3. 性別、人種・民族の多様性で下位25%以内に入る企業は、平均的な企業と比べ、財務リターンが当該業界の中央値を超える可能性が低い
  4. 人種・民族的多様性と財務パフォーマンスは比例関係にあり、多様性が10%高まるにつれて、営業利益は0.8%向上した
  5. すでに一定の取り組みがなされている性別の多様性より、人種・民族的多様性を高める方が、財務パフォーマンスにより大きな影響を与える
  6. 上級経営幹部の性別の多様性は、高い財務パフォーマンスに繋がっており、多様性が10%向上するにつれて営業利益は3-5%向上した
  7. 性別の多様性と人種・民族的多様性の双方において上位25%に入った企業は、存在しなった
  8. 同国同業者が違う財務パフォーマンスを示していることは、「ダイバーシティ」がマーケットシェアを高める差別的要素となっていることを意味している

冒頭のあるリーダーチームの意思決定に至るまでの、対話のやり取りをもう一度眺めてみましょう。3人のリーダーチームが、多様性のある考え方を持ち寄らなければ、顧客志向や従業員満足度、意思決定の制度などの向上を見込むことは、難しいのではないでしょうか。先のデータポイントの相関性からは、「多様なリーダーシップを取り入れた企業は、より財務的にも成功する」好循環を生むと読みかえることもできます。

終わりなき「ダイバーシティ」の達成:経営者と人事の苦悩

他方で、「ダイバーシティ」の達成の困難さについて語る、企業の経営者や人事を司る者の悩みは尽きないと想像します。それはなぜでしょうか。私たちが生きるこの時代で、様々な国境や業界、企業など「境目」が取っ払われて多様な人材が越境し交流することで、イノベーションや成長を模索していくことが、成功への糸口だと確信している経営者がいる一方で、いまいち各社の「ダイバーシティ」の取り組みが一過性のもので継続していかないことや、組織の多様性を最大限に活かす企業文化を醸成するところまで到達していないことも、課題として感じているはずです。

「ダイバーシティ」を高めることのWHYやWHATから始まり、様々な施策であるHOWに着手するとともに、昨今「ダイバーシティ」とペアで語られる「インクルージョン」にどうもヒントが隠されているようです。次号では、継続して「ダイバーシティ」の関連トピックとして、「インクルージョン」にスポットライトを当てます。それではまた。

桜庭 理奈

2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

企業における「ダイバーシティ」のリアル:多様性を増やせばいいってもんじゃない| KEIEISHA TERRACE

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