コーチングで、部門を自律し・自走するチームに変革

株式会社アバント

約1,300人

ITコンサルティング

導入背景

部署間の連携が取れておらず、まとまりの欠ける組織体系

導入後の効果

コーチング対話型の導入で、自律・自走する組織

株式会社アバントは、グループ経営管理・連結決算・事業管理から企業価値の可視化・最大化を、コンサルティングとソフトウェア提供の両輪でサポートし、企業と投資家の信頼関係を築くことをミッションとしています。社員数約400名のこの会社で人事統括部長を務める田中智之さんは、コーチングを受ける前、人事としての“不甲斐なさ”を感じていたのだとか。

なぜそのように感じ、コーチングを経てどのように心境が変わっていったのか。35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション) CEO桜庭との対談で赤裸々に語っていただきました。

自走する組織を実現したアバント人事統括部長の田中智之さんと、コーチの桜庭理奈の2ショット。
田中智之さん(写真左)、35 CoCreation CEO 桜庭理奈(写真右)、株式会社アバント オフィスにて

人事部門に漂うバラバラ感
焦りから、手っ取り早い“解”を求めていた

自走する組織を実現したアバント人事統括部長の田中智之さんと、コーチの桜庭理奈。

――まずは、コーチングを受けられる前にあった課題について教えていただけますか?

株式会社アバント 人事統括部長 田中智之さん(以下、田中) 人事部門は、主幹業務によって部署が分かれています。そのせいか、部署単位での動きが中心になりがちで、部署間の連携がほとんど取れていませんでした。同じ人事部門なのに、360°評価をしようにもできないくらい、隣の部署が何をしているのか知らない。その弊害の一つに、似たような企画が同時に進行していたことがありました。ある部署が進めていたプランと同じような企画が、先に別の部署から発表されてしまい、一緒に動いていた現場のメンバーをがっかりさせてしまいました。

社員数数百名規模の組織でそういうことが起きることに不甲斐なさを感じていましたし、同時に、懸命にやっている人事メンバーの努力が報われないことへの申し訳なさもありました。当時は、「まとまらなければ」という意識が希薄だったような気がします。

35 CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭) 専門性の高い方々の部署にありがちなことかもしれません。その頃に当時の副社長から「人事部門にはいい人材が揃っているんだけど、うまく回っていないみたいなので、まずは対話パートナーから始めてみてほしい」とリクエストをいただいたのが、お会いしたキッカケでしたね。

田中 副社長からは、「人事のプロを連れてくるよ」とだけ言われました。

当時、私は(マーケティング)事業部門を経て、再度人事部門に戻ってきたばかりでした。事業部門にいるときに、“人事はこうあるべきではないのか?”と偉そうな問題提起を当時の上司や副社長にしていたこともあり、自分が古巣に戻ったからには、すぐに結果を出さなければと焦っていました。

そのため、桜庭さんに会った最初の頃は「外資でのやり方はどうなんですか?」などと、 手っ取り早く“解”を求めていた気がします。

“点”ではなく、“面”で考える重要性
“そもそも”をじっくり追求

自走する組織を実現したアバント人事統括部長の田中智之さん。

――“解を与える”というとコンサルティングのようですが、コーチングをベースにした対話の中で、皆さんの課題に対する向かい方に何か変化はあったのでしょうか?

桜庭 最初は人事部の課題に対するご相談というより、個別でのご相談がメインだったのですが、それらが出尽くしたあたりで、“点”(=個別事案)の問いに対してお互い疑問が生じてきたのです。そこから、「果たしてこの“点”の問いは、“面”で考えたときにも重要なことなのか?」という方向にシフトしていきました。

田中 「なぜ人事は存在するのか?」という問いや、当社の経営理念である『100年企業の創造』の「100年企業とは一体何なのか?」など、当たり前に受け止めていたことに対する、 “そもそも”の問いをチームに投げかけてもらいました。皆でじっくり考えるプロセスをリードしてもらったと思います。

ただ、1on1なら短期間で答えが出せることが、チーム(6〜7人)だと半年もかかってしまいました。正直、「こんなに時間をかける意味あるの?」と面倒に思う時もあって…。きっと顔にも出ていたでしょうね(苦笑)。今思うと、考え方以前に、メンバー間の信頼関係が希薄だったのだと思います。

桜庭 部分的な人事施策の大上段となる「ページゼロ」を作って、言語化してみようとなったのでしたね。“個から全体”に、“解の提示から問いかけ”に変わったことで気づきはありましたか?

田中 意見が噛み合わないのは視点が違うからであって、それぞれの正しさを理解することができるようになりました。傲慢に聞こえるかもしれませんが、それまでは「現場を理解し、会社のことをとことん考えた上での発言なのに、なぜみんな分かってくれないんだろう」と思っていました。

しかし、対話を重ねたことで、それぞれの正しさがあると自分なりに理解できたことが大きな気づきでした。コーチングならではの“問い”が、導いてくれたのだと思います。

桜庭 同質の人ばかりでなく、異質の人とも理解を深められたのが良かったのでしょうか。新体制に変わられる時に田中さんが新リーダーとして迎えられ、チームメンバーとの新しい関係性の中で対話セッションを重ねるうちに、ギアが変わったように見受けられました。

田中 そうですね。今までは、異質との接点を無意識に避けて通っていたのかもしれません。今回、議論を重ねたり、新しいメンバーと話したりする中で、自分が大事にしていることを出し切ったからこそ、相手との距離感が縮まり、相手の考えも引き出すことができました。なぜそう思うのかをお互いに理解できるので、自分も遠慮せず発言できるようになったと思います。

個人のWillが、組織・会社としてのWillへ
背負うべき主語が対話の中で増えていく

自走する組織の実現をお手伝いした桜庭理奈。

――心理的安全性が構築されたということでしょうか。その長い議論を経て、変わったことはどんなことでしょう?

田中 発言する際に“私は〜”ではなく、“人事としては〜”や“会社としては”と、主語が増えたように思います。個人のwill(したいこと)はもちろんあるのですが、向かう先は会社のためです。 人事リーダー陣との対話を通して、この会社の人事組織として背負うべき主語があるということに気づきました。

桜庭 willの視座が変わったということでしょうか。個で何かやりたい!より、会社としての志のような大きなものと繋げて考えるようになったというような。

田中 そうですね。そこがページゼロに繋がっているのですが、私が出した叩き台は良い意味で原形をとどめておらず、会社として目指すべきものを踏まえた、人事リーダーそれぞれの問題意識やビジネスパーソンとしての想いが織り込まれています。自分だけでなく人事リーダー陣がこの会社の人事としてどう考えているのかを言語化できたことで、周りにも伝えやすくなりましたし、企画や施策、問題提起も通りやすくなった気がします。

面で考え、行動することの重要性も感じているので、最近はチームの雰囲気も良いです。リーダー間でも、議論の前提も揃ってきていて、連携もきちんと取れていると思います。チームミーティングも、今では桜庭さん抜きで自律して行えるようになりました。

桜庭 素晴らしいです。自律、自走されていて。自走する組織のジャンプスタートをお手伝いできたということでしょうか。

田中 リーダー陣の結束は不可欠な状況でしたので、その礎を作るところをご支援いただけたと思っています。

また、桜庭さんからの「それは誰が持つべき課題ですか?」という問いに、とても大きな気づきがありました。

当社は創業から「当事者意識が重要だ」と言われ続けているのですが、これは、この先企業規模が大きくなっても持ち続けるべき指針だと思っています。加えて、桜庭さんからの問いを受けて、 “守備範囲”の重要性も意識するようになりました。

例えば、育成が苦手なマネージャーの場合、人事が代わりに育成プログラムを行うのではなく、苦手を克服できるようにサポートする。あくまでメンバー育成はマネージャーの守備範囲であり、マネージャー自身が部下との信頼関係を築き、彼らの成長にコミットしなければなりません。

桜庭 なるほど。確かに、ボールをいかに持つかではなく、誰にどう持たせるか?に意識をおいた相談が最近増えている気がします。誰かに持たせる前提で、仕組みやツール、関係性などを考えていらっしゃるのですね。

頑張っているけど、報われない人におすすめ。

株式会社アバント 人事統括部長 田中智之さん。自走する組織を実現。

――これまでの経験を振り返られて、田中さんは、35 CoCreationが提供するコーチングはどんな方々、組織に向いていると思われますか?

田中 頑張っているけど、どこか報われない思いを抱いている人事の方、ですかね(笑)。

桜庭 たくさんいらっしゃいそうですね(笑)。

田中 もちろん、人事部門だけでなく、部署内や部署間で衝突が起きているところにはおすすめです。自分のチームや部署の意見しか背負えないと、必ず衝突が起こるものだと思いますので。

私も、桜庭さんに関わっていただく前は、現場の声を聞いているつもりでも、自分の関わっていた部門の話しか聞いていなかったことに気づきました。自分の出身部門の意見ばかり聞いて、他部門の話はほとんど聞かずに全社展開する企画を決めたこともありましたし、当然不満が生まれていたでしょう。そんな状況の中で、桜庭さんは客観的な立場から私の立ち位置を気づかせてくれたと思います。

過去、現在、部署間などにおいて、「無意識のうちの自分のスタンス」があることに気がつくと、周囲との連携や状況の把握の偏りなどにも気づいて、行動が変わります。相手の話に耳を傾けることで理解が進み、こちらの提案や伝え方も変わってくるので、相手にも理解してもらえるようになります。

桜庭 当初のソリューションベースの関わり方と、その時の状況で一番有効な問いを投げかけていくコーチング対話型の関わり方とでは、どちらが良いでしょう?

田中 その組織が目指す姿によるとは思いますが、我々のように組織を自律させたいなら、後者だと思います。

桜庭 田中さんが得られた気づきを、今後周りの人や会社全体にどのように広げていきたいとお考えですか?

田中 人事としての考えはきちんと言語化してまとめられましたが、それを声高にいうつもりはありません。もちろん聞かれれば答えますが、人事という立場で会社をよくしていくために行動すればいいのかなと思っています。周囲から、「なんか人事よくなったね」と思われたら嬉しいですね。

桜庭 とても良い取り組みになって嬉しいです。お話いただきありがとうございました。

編集後記(桜庭)

田中さんと人事部チームの皆さま方とは、様々な組織の変遷の中で、伴走型で携わらせていただきました。お話をお伺いしながら、各場面が走馬灯のようによみがえってきて、感無量でした。
組織も人も有機体であること、昨日、今日、明日と全く同じ状態ではなく、進化していくこと。変わり続ける流動性の中でも、強固な信頼で結ばれたミッションドリブンなチームを創っていくプロセスを、これからも有意義な対話を起こるべきタイミングで起こしていくことで、実現していく。そのような大切な局面で、対話サービスを提供するプロとして、これからも組織、リーダー、人をご支援していくことへの情熱と志を、改めて心に刻みました。

田中智之さん プロフィール

大学卒業後、金融機関で取引先として当社を担当した縁から当社へ転職。入社後は人事・総務・IRなどを担当。グループ会社人事やマーケティング部門を経て2020年に当社人事部門へ復帰。2022年より現職。

聞き手・執筆/大倉 奈津子

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