テレワーク時代の働き方と「つながらない権利」について考える

テレワークで関心が高まる「つながらない権利」 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)コラム

フランス発、つながらない権利

「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日に、仕事のメールや電話に対応することを拒否する“権利”のことをいいます。発祥の地のフランスでは、すでに労働法にも織り込まれています。日本ではつながらない権利の法制化はされていませんが、勤務時間外に業務に関する対応をすることは当然時間外労働となります。

コロナ禍で日本でもテレワーク(在宅勤務)の導入が進みましたが、時間外労働を行うことによる公私の境界は曖昧に。厚生労働省が提示したテレワーク推進のガイドラインは、長時間労働を防ぐ対策として、同様な内容が提案されています。

テレワークが推進される今、注目される「つながらない権利」について、以下、少し仔細に考えてみましょう。

通勤でもテレワークでも課題は長時間労働

コロナ禍以前、働き方改革推進の一つとして注目されていたテレワーク。2015年に鳴門教育大学大学院准教授の坂本有芳氏が発表した論文では、「​​ICT(情報通信技術)ツールの利用度の高さや在宅就業頻度は、仕事と家庭生活の葛藤(コンフリクト)を増やす方向にある」と伝えています。

ここでいうICTはインフラ技術のことでなく、個人が選択可能なハードウェア(スマホ、タブレットなど)、ソフトウェア(メッセージやスケジューラーなどのアプリ、ネット電話などのネットサービスなど)のことです。調査からは「育児との両立」ができたと回答した女性をはじめ、女性に関しては、昼間の利用が多くみられる一方で、特に男性については、在宅勤務と言っても「持ち帰り残業」や休日出勤代わりの実施が多く、結果的に長時間労働から抜け出せていないことが分かります。

日本では以前からサービス残業が恒常化するなど、長時間労働を是としてきた文化がベースにありました。しかし、働き方改革、ワークライフバランスが叫ばれるようになり、その意識は着実に“変えるべきもの”となってききました。

テレワークで勤務時間が長めに

コロナ禍爆発的に広がったテレワークでは、場所や時間を有効に活用できるようになってきたとはいえ、働き過ぎという問題に対しては根本的な改善があまりみられていないようです。日本労働組合総連合会による2020年の調査によると、テレワークによって、「公私が曖昧」になることがあった人が70%強、「労働時間が長くなる」「勤務時間外に仕事に関する連絡をする」ことがあった人が50%を超えるとの結果に。意識が向かうべき方向と実情は、真逆に進んでいるようです。

年代別に見ると、10代〜20代では「プライベートの充実に繋がった」、「趣味に費やす時間が増えた」割合は35%近くに上りましたが、40代、50代では20%以下を下回っています。若年層は、テレワークにより自分の時間を確保できるようになり、ワークライフバランスを保てるようになったと感じている人が見られる一方で、サービス残業に慣れた40代以降は、コロナ禍のテレワークであっても、プライベートにはなかなか時間を割けていないことが分かります。

若年層ほど「サボっていると思われるストレス」を抱えている

もともと残業を厭わない働き方をしていた40代〜50代より、働き出した20代〜30代のほうが、働く時間とプライベートの棲み分けを意識している人は多いようです。

一方で気になるデータも。株式会社ヌーラボによる「テレワークと“サボり”の関係性に関するアンケート調査」によると、20代〜30代のほうがテレワークによって「サボってしまう」傾向があると同時に、他人から「サボっていると思われているかもしれない」ストレスも感じているというのです。

さらに、年代の高い人ほど「(他者が)サボっているのでは?と思ってしまう」というのは、本当の意味で働きやすい環境とは言い難いですよね。20代はテレワークを終了してオフィス勤務を希望する人の割合が、他の世代と比べて高く、こうした要因も関係しているといえるでしょう。

テレワークを継続するのであれば、若い世代の「サボっていると思われストレス」を軽減する必要があります。しかし、そのストレス解消の方法として、まるで勤務状況のパトロールのように、今何をしているかをこまめに詮索しては本末転倒です。

テレワークで関心が高まる「つながらない権利」 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)

テレワークで関心が高まる「つながらない権利」 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)
出典:株式会社ヌーラボ テレワークと“サボり”の関係性に関するアンケート調査 2020年

無意識にプレッシャーを与えている?メールは即レスが基本?

テレワーク・出社問わず勤務外時間に仕事をする場合、遅い時間に電話をかける(受ける)のは躊躇する人がほとんどではないでしょうか。しかし、メールならどうでしょう。メールを送る側の場合は翌日に相手が見てくれればいいと考え、送信した経験がある人は少なくないはずです。調査によると、24時間以内にメールへの返事がくれば遅いとは感じない人が多いようです。

では、勤務時間外に企業から業務連絡が来た場合はどうでしょうか。電話・メール問わず、90%以上の人が「対応する」そうです。送られた側は返信しなければとプレッシャーに感じてしまっているのですね。厚生労働省のガイドラインにあるように、メール(および電話)の送信に時間制限を設けるとか、システムへのアクセス時間を制限することで、仕事の対応ができない状況にするなどの対応が必要でしょう。

テレワークで関心が高まる「つながらない権利」 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)
出典:レバレジーズ株式会社 勤務時間外の業務連絡に関する意識調査2018年

みんなでデジタルデトックス

たとえ拒否する権利があったとしても、権利を使えるかどうかは、その人の性格や状況によります。連絡がくれば対応してしまう人が9割を超える状況では、「やめましょう」と喚起するだけでは不十分でしょう。

勤務時間外労働は少しの時間超過でも、心身ともに影響を与えるという調査結果がドイツの研究機関から出されています。夕方6時以降の業務外対応でうつ病などの発症が多かったとの報告もあり、働く時間も重要なようです。前項で触れたような「さぼり」に関するストレスもあります。やはり「つながらない権利」を誰もが使えるよう、きちんと制度として担保するべきです。

たとえば、フジテレビアナウンス部は午後10時以降のメールを禁止しています。もちろん、早朝の番組を担当している人など例外はあるようです。

労働法に「つながらない権利」を織り込んでいるフランスも、時間帯などは各企業が決めることになっているように、「つながらない」期間は各々の企業の状況によって決めるものです。

大事なのは、決めたからにはマネージャーやリーダーが率先して守ること。今や小学生でも一人1端末の時代。いつでもつながれる安心感もありますが、つながらないことの大切さをきちんと教えていく必要があります。同時に、メリハリをつけて働くためにも、業務ツールやデジタル機器そのものから意識的に距離を置き、精神的・肉体的な疲労をリフレッシュする「デジタルデトックス」の習慣も持ちたいものです。

桜庭 理奈

2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

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