導入の背景
創業者の孤軍奮闘状態で、従業員が定着しない状態に
導入後の効果
各々が自由に意見を出して、相互的に理解が深まり自走する組織に
株式会社Resorz(リソーズ)は、日本に変革を起こすことを「理想図(理念)」に掲げ、日本企業の海外ビジネス展開に関する情報発信や支援などを行っています。
社長が社員9人を自らマネジメントするという構造で、思うように人材が定着しなかった――こう話すのは、代表取締役の兒嶋裕貴さん。孤軍奮闘状態から脱却するために頼った35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)のコーチングを経て、今では社員それぞれが自らの意見を持ち、相乗効果が生まれる組織へと変化したそうです。その過程ではどんなことが起こっていたのでしょうか。兒嶋さんをはじめ、取締役の鷲澤圭さんと鶴智之さんも交え、35 CoCreation CEO桜庭との出会いから、取締役陣を巻き込んだ組織作りまで幅広く語っていただきました。
初対面なのに、心が丸裸になる感覚
──御三方とも、桜庭さんとの出会いは印象的なものだったようですね。
35 CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭) 6年ほど前に、兒嶋さんと初めてお会いしたのがそもそもの始まりでしたね。私が、積極的に社外人脈を広げていた頃のことでした。
株式会社Resorz 代表取締役 兒嶋裕貴さん(以下、兒嶋) 正直なところ、桜庭さんの経歴をみて、当時勤められていた会社についてはあまりよく知らなかったのですが、桜庭さんという人には直感的に興味が湧きました。実際お会いしてみると、気づけばなぜか桜庭さんに悩み相談をしていて…。私は普段から弱みを人に見せるタイプではないので、後から自分でもびっくりしたことをよく覚えています。
取締役 鷲澤圭さん(以下、鷲澤) 私は、兒嶋がお会いしてから割とすぐに引き合わせてもらいました。桜庭さんは、質問の二の矢が鋭くて、私が答えたらすぐさま「それってなんで?」とか「それはどういう感情なの?」と返ってきます。一瞬ドキッとするのですが、自然と自分について深く考えさせられ、気づけば内面を吐露していました。初対面なのに丸裸にされた感じでしたね(笑)。
取締役 鶴智之さん(以下、鶴) 私は、自身の最終面接で初めて桜庭さんとお会いしました。鷲澤さんがいうようにまるで丸裸にされるように、自分の過去や弱みを全て話さざるを得なくなってしまっていて。途中から涙ぐんでました(苦笑)。
桜庭 そうそう、私もお話を聞きながら涙ぐんじゃいましたね。当時、会社としてはどんな課題がありましたか?
鷲澤 私は入社して5年くらい経っていたのですが、その間人の出入りが激しく、いわゆる「10人の壁」にぶち当たっていました。しかも、その10人は私も含めた9人がメンバーで、社長の兒嶋が全員の上司という状況でした。
兒嶋 自分一人で引っ張っていくのではなく、みんなが考えて動く組織にしたいと思っていたけれど、私自身が非組織人なので、実際どのように組織をつくっていけば良いのかわかりませんでした。
社長VS社員全員の構図から、真のチーム体へ
──そのような状況の中で、どのようにお付き合いが始まったのでしょうか?
兒嶋 初めはわからないことばかりで、「外資の大企業ではどうなの?」とひたすら質問していました。その後、人事と名の付くありとあらゆることをお願いするようになりました。
桜庭 面接シートの作成から実際の面接もお手伝いさせていただきましたね。雇用契約書の作成や人事制度についてのブレスト、チームタッチポイント※1などもやりました。
鶴 私の面接もやっていただきましたね。
鷲澤 そうそう。鶴さんの加入後から、お願いすることも組織も変わった気がしています。
桜庭 最初のチームタッチポイントの時は「兒嶋さんVSメンバー」の構図で、兒嶋さんはマネジメント=管理という思い込みがプレッシャーになって辛そうだし、メンバーの人たちは自分の人生を自分でコントロールできないフラストレーションを抱えているように見えました。
兒嶋 管理と言っても、悪気なくやっていたんですけどね。責任感から気負いすぎて自分でも辛かったです。その辛さを桜庭さんがわかってくれて「頑張ってるよ、すごいよ」と褒めてくれたのがうれしかったです。誰も言ってくれなかったからドギマギしちゃって(笑)。
桜庭 頑張ってましたよ!ただ、営業や総務などの属性で分かれた“グループ”はあったものの、その中身はバラバラでした。それで、共通のミッションを持った”チーム”として価値観を共有しようと、TOS(Team Operation Sheet)※2 を作ったのでしたね。
鷲澤 チーム全員で意見を出してTOSを作ったことで、立ち返るところが“兒嶋さん”ではなく、そのシートになりました。そこから、チームとしてのまとまりができてきたように思います。
──兒嶋さんのワントップ体制の下、皆さんが意見を出し合えるようになったのはどうしてでしょうか?
鷲澤 自分が丸裸にされたように、桜庭さんの質問スキルを真似してみたら、皆が「自分で考える」ようになってくれたからだと思います。また私自身も、かつては嫌われたくなくて本音を言わないことが楽だと思っていましたが、実はそれが自分を苦しめていたことに気づいて、意見を言えるようになりました。
兒嶋 イエスマンじゃなくなって、人間らしくなったよね(笑)。
鶴 兒嶋さんは最近、「自分が良しとしていることをやらなくてもいい」って言うようになりましたね。余白ができたような。
※1 チームタッチポイント:チームリーダーとチームメンバーとの間で真摯な対話を通して、お互いの関係の質を高め、チーム内の信頼度を高めるチームビルディング手法。
※2 TOS(Team Oparation Sheet):チームミッション、チームの価値観、チームのゴール、チームの役割分担、チームの約束事等を言語化して、チームが同じベクトルで日々の仕事を進めるためのチーム憲章のこと。
「信頼残高は貯まっているか?」信頼が育まれるフィードバック文化
鶴 桜庭さんの影響というと、入社後しばらくして兒嶋さん、鷲澤さんたちで構成される経営企画部に入ったら、桜庭臭が強かったですね(笑)。特に徹底して言われていたのが「マネージャーたるもの“信頼残高”を貯めなくてはいけない。人間関係は信頼のやり取りだ」でした。
桜庭 言ってましたね。端的にいうと、信頼ポイントのプラスマイナス。相手はどんなことをすれば信頼してくれるか、逆にどんなことをしたら信頼を失うのかを、各々に対して常に意識することです。
鷲澤 それによって、メンバーそれぞれに対してどういう接し方や物言いをすべきなのか、自分なりに明確になってとてもスッキリしました。また、相手を尊重できるようにもなりました。
兒嶋 私も鷲澤も、それまでは自分と同程度のスキルをメンバーにも求めていたんです。「なぜ分からない?」「なぜできない?」と。「自分と同じことができない=できない人」とレッテルを貼ってしまっていましたから。でも、会社というのは自分が10人いても良くはならない。いろいろな人がいて成り立つのが、自然な状態なのだと分かりました。
鷲澤 私の場合は、仕事を巻き取ってしまって信頼を無くすこともありましたね。ただ、信頼するというのは一種のスキルで、正直根っこの部分では不安がぬぐえないこともあります。
桜庭 兒嶋さんはその辺り、上手に接している感じですよね。
兒嶋 毎年自分を顧みて、行動や言い方を変え続けています。180度ではなく90度。いきなり大きく変化するのではなく、少しずつ変わり続けることが大切かと。最近は批判するのでも褒めるのでもなく、感謝から会話に入っています。
鶴 最近の兒嶋さんは気づきを与えるコミュニケーションしかしていないですよね。私もどうすれば喜んでもらい、信頼を得られるかを意識するようになりましたが、「喜ばせるのは媚びることとは違う」とも思っています。時には厳しいことも言わなければなりません。TOSから外れた行動をとっている時などには、フィードバックを徹底しています。
兒嶋 コーチングを受けたことによる自身の大きな変化は、「完璧でなくてはならない」という考えを手放せたことです。完璧でない自分を愛せるようになり、相手にも完璧を求めなくなりました。すると、課題の分離ができるようにもなったのです。ある意味ドライさも身についたと思います。
桜庭 元々フィードバックを積極的に行う文化ではなかったですよね? ある時期から、一気に活発になったような気がしますが。
鷲澤 経営企画で将来を見据えた理念などを策定した際に、相手のことを思ってフィードバックできる組織にしたいと。まずは経営企画からフィードバックを常日頃から行うようにし、それをメンバーへも広げていきました。
兒嶋 確かに経営企画ができるようになってから、面で変わっていった感がありますね。
桜庭 メンバーを含め、「フィードバックを受ける側」の研修も実施しましたよね。建設的にフィードバックをしても受ける側がネガティブに受け止めると効果がないし、フィードバックする側も辛い。
鷲澤 桜庭さんの「フィードバックとはクリスマスプレゼントだ」という言葉が印象的です。受け取っても、いらなかったら棚に置いておけばいいと。お互い楽になりましたよ。
信頼残高が貯まっていたので、フィードバックも受け入れやすくなっていたんでしょうね。
アドバイスとボディーブロー。コーチングが効くタイミング
──変化のきっかけとなった経営企画ができたのは、社長VSメンバー構図のメンバー構成員だった鷲澤さんがイエスマンから脱皮したからでしょうか?
鷲澤 私としては、やはり鶴さんの加入が大きかったと思いますが、桜庭さんと接する中で、自分で飲み込まず本音を言えるようになったことも大きいと思います。
桜庭 そういった意味では、鷲澤さんにとってコーチングは即効性があったのでしょうね。
鶴 私には、桜庭さんの言葉はボディーブローのように効いてきます。大方は失敗した時に「桜庭さんが言ってたのはこのことか!」と気づくのですが。例をあげると枚挙にいとまがなく、常に何かしら頭をよぎっている感じ。それらを支えに、言葉を飲み込まず諦めず、メンバーにフィードバックできるスキルを得られたことが、私の一番のコーチングの成果です。
桜庭 意見を飲み込んでしまうという点においては鶴さんも鷲澤さんも同じですが、鶴さんは一度自分の中で咀嚼するタイプでもあるのですね。コーチングの効果には、即効性と遅効性がありますから。
鶴 兒嶋さんも即効タイプですよね?
兒嶋 一見ね。でも、大概は試行錯誤を重ねて失敗の中で気づいている。そのサイクルが早いだけなんじゃないかな。
鷲澤 兒嶋さんは、常に変わろうと試行錯誤しているように見えます。
桜庭 失敗に気づくと、自分が学んだことを再認識できるのでしょうね。コーチングはある意味実験。実験、結果(失敗)、検証の繰り返しです。だから会っていない間の行動が大事なのです。
鶴 私は「今、アドバイスモンスターが出てます!」と、メンバーから指摘されることがあります(笑)。
桜庭 すぐに答えを与えてしまうアドバイスモンスターが決して悪い訳ではなく、求められているタイミングで発動することが大切ですね。
「人に寄り添う組織」を目指すならコーチング
──インタビューの前後に、メンバーの方が次々と桜庭に近況を報告に来られていて、皆さん楽しそうですし、物おじすることもなくとても自律的な雰囲気がありました。コーチングの効果が組織全体に広がっている証なのでしょうか。
兒嶋 初めは点だったものが面で広がっていって、各々が自由に意見を出して、相互的に理解が深まる相乗効果を生めるような、有機的で「人に寄り添う組織」になってきたと思います。本来目指していた姿ですし、相手を慮る姿勢に気づかせてくれたコーチングの力は大きいですね。
うちと同様に人を大切にしたいと思う組織には、ぜひコーチングをお勧めします。また、「コーチングは実験」ともおっしゃっていましたが、実験とは何かにチャレンジしているということ。そのような組織にこそ、コーチングは非常に有効なのだと思います。
鷲澤 確かにそうですね。でも、古い体質の会社にもぜひ使ってみてほしいとも思います。旧態依然とした組織ではその存続自体が厳しくなる世情ですが、変わるきっかけになるとよいのではないかと。
鶴 またはワンマン社長で、社長自ら(もしくは社員が)変えないといけないと思っている会社にもハマりそうな気がします。マネージャー層までを対象にすれば、組織全体に与えるインパクトが大きくなるので、強くおすすめします。
桜庭 力強くも嬉しいお言葉、ありがとうございました。
編集後記(桜庭)
Resorz社は、当社に初めてお任せいただいた大切なお客様のうちの一つです。御三方とは様々な変遷の中で共に歩んできたため、私自身思い入れのあるクライアントでもあります。今回、人や組織、チーム、文化の変化を「丸裸」に、あるがままのお話を伺うことができ、大変感慨深い機会でした。対話の質の変化によって、人や企業が成長できたとのこと、大変感動いたしました。
兒嶋裕貴さんプロフィール
ライフワークとして現在までに世界約60カ国200都市以上へ渡航。サイト売買(M&A)サービスの立ち上げや、ベトナムホーチミンでのオフショア開発企業立ち上げに参画後、日本の開国を目指し2009年に株式会社Resorzを設立。幅広い海外ビジネスの知見と40カ国籍以上の人材マネジメント経験から省庁や海外政府機関、自治体、金融機関向けに講演を行う他、日経産業新聞や金融業界紙でコラムを執筆。2020年からは経済産業省中小企業庁「新しい担い手研究会」委員に就任。2021年には、農林水産省が管轄する「海外展開ガイドライン作成」の検討委員会に参画。
鷲澤圭さんプロフィール
大手出版社での書籍編集者を経て、2012年株式会社Resorzに入社。企画営業、メディア運営業務に従事する。 2015年、「Digima〜出島〜」編集長に就任。海外ビジネス関連ニュースやノウハウを日々配信。また、2014年より海外進出企業の相談をもとにした「海外進出白書」を執筆・発表するかたわら、様々な企業・団体が主催するイベントなどでの講演も多数行っている。
鶴智之さんプロフィール
キャリアを通じて、企業のマーケティング活動の支援に従事。クライアントのマーケティング活動支援を通して、大手CVSチェーンの東南アジア展開を伴走。また、海外事業部人材のあるべき姿の徹底的な可視化実現に尽力してきた。 2018年株式会社Resorzに参画。海外ビジネス検討ユーザーと海外ビジネス支援事業者の課題解決を実現するプラットフォームサービス「Digima~出島~」の運用・改善に携わる。
聞き手・執筆/大倉 奈津子