本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから第5回「人事部」「HR」という呼び名はもう古い?!:組織にヒューマニティを取り戻す新たなミッションと挑戦、より転載を行っております。*
みなさんはHRBPという仕事がこの世の中に存在することを、ご存じでしょうか。人事やHRの分野に関わっている方であれば、昨今この4つのアルファベットを目にすることも少なくないでしょう。HRBPとは、人事の領域における一つの職務であり、Human Resources Business Partner (ヒューマン・リソース・ビジネス・パートナー) を意味します。
HRBPについては、ミシガン大学ビジネススクール教授であるデイビッド・ウルリッチが、1997年に発表したMBAの人材戦略の中で、人事部門が企業経営に提供する価値は戦略人事であるという視点から、人事部の役割を「HRビジネスパートナー(戦略パートナー)」「変革エージェント(変革を促す者)」「管理のエキスパート(専門家)」「従業員のチャンピオン(代弁者)」の四つに整理したことが、始まりだとされています。
2019年から急速にHRBPに関するパネルディスカッションや、コンファレンス、研修での講演の依頼を自分自身受けることが多くなったことを体感しています。2018年以前は、HRBPという職務自体を設ける企業自体がまだ限られており、ポジション(職務)を設けてみたものの、経営者も担当者もHRBPという職務が何を期待されて存在するものなのか、うまく言語化できない中で、トレンドに乗って新設したケースも見受けられました。講演でのQ&Aの内容も変わりました。
以前は「HRBPとはいったい何なのか」「置く意義はあるのか」という、“そもそも論”という質問が多かったのですが、最近では「HRBPのミッションをより明確にするにはどうしたらよいか」「他のHR部門との連携や施策の繋ぎこみは具体的にどうしたらよいか」「HRBPに育てるのに適したペルソナ(人材像)はあるか。どのような具体的なステップで育てたらよいか」、という、“いよいよ論”に立ったご質問が増えました。そういった個人的な体感からも、世の中の人事部というチーム、機能に求められる視座や見方、期待の風向きが変わってきているのは確かにあります。
初めてHRBPという職務を耳にした方も、聞いたある方も、実際にHRBPとして活躍されている方も、初心に戻って「HRBPとは」を改めて定義し、今後経営者の皆さんがHRBPを新設する上での参考になれば、という思いを綴ります。そして最後には、時代の波と共に次の進化系である人事部や人事を預かる者の使命・ミッションと挑戦について、皆さんへ語り掛けます。
「HRBPとは」-桜庭バージョンの定義
HRBPという4文字を紐解きましょう。Human Resources Business Partnerですね。これをあくまでも桜庭バージョンで翻訳するのであれば、このようなミッション、期待、価値がこの言葉に秘められていると解釈します:
HRBPの役割をこのように定義するとすれば、合わせて考えねばならないのは「事業の持続的成長と進化に貢献する」という部分です。それは、産業の変遷、事業モデルの変遷、組織の変遷、そして求められるリーダーの役割の変遷、です。往々にして、こういった事業を取り巻く環境の変化に目を向け事業モデルの変革に乗り出す経営者やリーダーの方はいらっしゃいます。
しかし、合わせて持続的な成長と進化において欠かせないピース(要素)である、組織の成長と進化、それをけん引するリーダーの役割の変化を明文化し、成長と進化に投資し、取り組んでいるか、というと後手に回っているケースも見受けられます。結果として、事業モデルの変革に着手し大きく舵を切ったものの、振り返って見ればそれを未来に向けた原動力と共に推進する人が、圧倒的に組織内に存在しないことに愕然とする経営者の方の生々しいお声を伺います。事業モデルの刷新もしながら、組織の進化や新陳代謝も促しながら、人の育成やリーダーシップの醸成までを経営者ひとりが担うことは、不可能です。経営者であっても、スーパーマン/スーパーウーマンではありませんから。
だからこそ、自分と同じ視座で経営の全体を見渡し、組織、チーム、人の健康状態を把握しており、事業にまつわる経営判断をする際に、どの人的資産に対して投資をして強化、成長させるべきなのか、または、どの人材の可能性(ポテンシャル)に火をつけてやる気にさせるべきなのか、意識的に育てるべきなのか、どのような投資すべき事業のクリティカルポジション(重要な職責・職務)に、どの人材をベット(賭ける)して下駄を履かせてまで挑戦させるべきなのか、そういったことを対等の立場で相談し経営判断を共にしてくれる相棒が必要になるわけです。これが、私が考える「HRBP」です。イメージが湧いて来たでしょうか。
なるほど、経営者としてみればそんな相棒今すぐにでも欲しい!でもどこにいるのだろう、そんな人。自分のチームにポテンシャルがありそうな人材はいるが、どのように育てたら良いのだろうと悩まれますよね。
HRBPを目指す・育てる4つのステップ
1.ビジネスの洞察力と決断力を養おう
HOW?:どうやって?
- 自分の担当している事業部の定例ミーティングに参加しよう
- その事業部のミッション、何の価値を出すことが期待されている部門なのかに興味を持ち、理解する
- 違和感、「わからない」を黙ってそのままにしない。「わかりません、教えてください」が何より勇気がいり、かつ、一番有効な学びへの第一歩であることを覚えておく
2.チームを持つリーダーを品格あるリーダーとして育てるべく、コーチングを身に着けよう
HOW?:どうやって?
- リーダーたちでも答えが出しづらい案件に対して、自分が答えを出して相手に教えることがHRBPの最も価値が出せる役割ではない
- そのような状況において、HRBPが最大の価値を出せるのは「相手の中に眠っているだろうソリューションへの鍵を共に探す」役割である
- そのためには、私たちが学校教育や社会人生活の中で学ぶ機会の多かったティーチング(先生=>生徒へ教える)やメンタリング(先輩=>後輩へアドバイスする)、マネジング(上司=>部下を管理する)スタイルだけでは、その役割は担えない。よって、コーチングのスペシャリストとなる道へと一歩を踏み出し、その道を極めることが、HRBPとしての最大の価値のひとつを獲得することに繋がる
3 人にまつわる測定指標を開発し活用する、ワークフォースマネジメントのプロとして戦略的解決案を提供しよう
HOW?:どうやって?
- 何だか小難しく聞こえるかもしれないが、データを補助的に賢く使おうという話である
- 例えば「このチームは疲れているように感じる」とマネジャーに伝えたところで、「何を根拠に言っているのか」という状況であれば、ストレスチェックアンケートの実施データや結果を元に、HRBPとして解決策を提供する補強の目的で戦略的に引用する
- また、データは人のもつ無意識のバイアス(先入観・思い込み)にも気づかせてくれる上での、役立つことを覚えておく
4.非現実的な解決策を提案しても実装できない、「守り」の法務、ガバナンス、法令順守にかかる知識やオペレーションに関する知識もベースとして持っておこう
- HRBP=攻めの人事と表現されることもあるが、孔子が「先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ」と説いたように、組織の「守り」の態勢をしっかりと整えることが、しいては組織の「攻め」の態勢を整えることに繋がる
- 基本的な守りの知識である、法務、ガバナンス、法令順守、最新の労務事情や法改正にも明るいHRBPは、攻めの行動においても自信を持って実行できる
次はどのような進化系が繰り出されるのか:HRBPの次世代型はこれが来る!
最後にしっかりとした答えのない質問を皆さんと自分自身にも問いかけます:「次世代の経営や事業の進化の歩みを止めず、この不確定要素が多く、答えや決断の糸口が見出しづらい中で、どのようなビジネス・パートナーが求めれるようになるか」。どのような人材像を皆さんはイメージしますか。
私の持論ですが、これからの時代の波の中では、組織にヒューマニティ(人間性)を取り戻していくことが、組織開発の大きな柱になっていくと予測しています。Work(仕事)にHuman(人間らしさ)を取り戻すことは、すなわち21世紀ポストコロナの時代において、企業の存在意義や社会にもたらす価値、個と組織との繋がりや相互関係を抜本的に再定義しなおすキーワードとなります。
財務、データ、ロジック、結果主義だけに偏りすぎた経営だけではなく、改めて人間性を組織にDNAとして注入していく、血を通わせていく、それを一人ひとりの個が実感できており、かつ組織の大きな崇高なミッションに主体的に繋がり続けることを選択している組織が創れれば、結果は自然と出ると信じています。
夢想家と思われるでしょうか。今日のコラムは皆さんへの問いかけで締めくくります。それでは、次号でまたお会いしましょう。
桜庭 理奈
2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。