人事評価、これまでと同じで大丈夫?
コロナ禍でテレワークが進み、働き方に変化があってから、多くの企業が2期目、3期目を迎えます。そんな中、評価をめぐって問題を抱えている企業も多いでしょう。働き方が変わったのですから、当然評価においては観点・基準などを見直す必要があります。
株式会社あしたのチームによる人事評価制度運用に関する調査によると、2020年〜2021年にかけて、評価制度を改訂したと答えた経営者はたった11%でした。マネージャー、メンバー共に困惑と混沌を経て、ある程度落ち着いてきたからこそ、評価される側であるメンバーが不満に思っていることは何か、評価する側の懸念点に変化はないのかなどを含めて、評価制度を見直す時期にきているのではないでしょうか。
テレワーク下での評価、上司のほうが不安?
テレワークが進む中、具体的な働き方の現状を把握するために様々な調査も行われています。パーソル総合研究所が行なった「リモートワーク(テレワーク・在宅勤務)に関する調査」では、テレワークをする人(メンバー)とマネジメントする人(上司)では、テレワークで不安に感じていることに違いがあることが読み取れます。メンバー側ではコミュニケーション不足や評価への不安が目立つとはいえ、共に40%弱だったのに対し、マネージャー側はというと、メンバーのマネジメントやコミュニケーションに関する不安が40%を超える結果に。
同社による別の調査でも、メンバーに向けた「テレワークの環境下で、自分の評価が正当にされているか不安だと感じたことがあるか」との問いに、「感じたことがある」「少し感じたことがある」の回答が合計40%弱だったのに対し、マネージャーへの「テレワーク環境下で、メンバーの評価が正しく行えているのか、不安だと感じたことがあるか」との問いには、約53%が「ある」「少しある」と答えています。
総合的にみても、マネージャーの方がメンバーよりテレワーク下で不安・疑念を抱いているようです。
とはいえ、メンバーとマネージャー双方が抱える不安は、リモート期間が長くなるにつれて、システムや施策の導入によって改善されてきている部分もあるでしょう。株式会社あしたのチームによる「コロナ禍のテレワークと人事の課題に関する調査」によると、「評価が難しい」と感じているマネージャーの割合は昨年に対して減少しています。
“見えない”のは勤務態度だけではない
テレワークを経験した人の中には、若い世代を中心に、積極的な出社を望む人たちもいます。今後はテレワーク&出社のハイブリッド型が増えるであろうことを想定すると、業務フローに限らず、評価制度も柔軟に変えていく必要がありそうです。先の、あしたのチームによる調査によると、テレワークに合わせた人事評価制度への見直し・改訂の必要性について、実に80%以上の人が「見直し・改訂する必要がある」と回答しています。
勤務状態が見えないことが評価に影響を与えるのではという不安に加え、給与の決め方に人事評価が大きな割合を占めているにもかかわらず、基準が不透明なことに不満を持っている人が多いことが伺えます。しかし、これは今に始まったことではなく、評価に対しての納得感は、コロナ以前も決して高いものではありませんでした。リモートワークになったことで、さらにその不満が増幅されていると考えて良いのではないでしょうか。
主に、今までは成果への努力・姿勢を直でみてもらえていたのに、それがみてもらえない。業務の効率化など成果を上げる準備段階に、時間や労力を、出社時よりも割いている割には、その部分がまったく評価されないといった不満が蓄積しているのです。マネージャーがコロナ禍1年目と同様の評価基準を用いようものなら、その不満が爆発しても致し方ないでしょう。
中小企業も興味を示し出した“ジョブ雇用”
そもそも、成果への努力・姿勢などのプロセス評価は、数値化できずに基準が曖昧になりがちです。プロセスが直で見えないのでは、どうしても成果に偏った評価になってしまう。しかし、それで納得感を得ることも難しい…。そんなジレンマを抱える中、日本における従来の採用スタイルであるメンバーシップ型雇用から、主に欧米諸国で広く普及してきたジョブ型雇用を取り入れる日系企業も増えてきています。雇用の前に「どんなポジションで」「どんなミッションで」「どんな成果を期待するか」を明確にし、企業側、応募者側の双方が納得した上で雇用契約を結ぶのがジョブ型です。
ジョブ型雇用では、勤続年数や年齢ではなくスキルに応じて給与が決まるので、社員には常に自己研鑽が求められる傾向があります。与えられたジョブ、つまり職務に対し業務を通してスキルを磨き、それを活かせるような業務を遂行します。したがって評価の基準は、あくまで「契約事項が履行されたか」となります。極端に言えばプロセスが見えていなくても、成果が出ていれば問題はなく、こうした意味で、テレワークとの相性が良いと言えるのです。ジョブ型雇用は企業側にとっても評価基準のブレが少なくなり、専門性の高い即戦力人材を採用・活用しやすいメリットがあり、ダイバーシティの加速も期待されています。
ジョブ雇用の先陣を切ったのは大企業ですが、テレワーク普及率の向上や多様な人材を活用したいニーズに合わせ、中小企業の経営者からの関心も高まってきています。
まずは、現状把握を
確かに、キャリアを積んだ年代や専門職であれば、ジョブ雇用も公平な評価への有効な手立てかもしれません。しかし、新卒や第二新卒はどうでしょうか?社会人としてのマナーなどはインターン時代や入社時研修で習得していたとしても、社内外とのやりとりにおいて高いコミュニケーションスキルを発揮できる人は多くはありません。キャリア観についても、何がしたいか、何ができるかもまだ不明瞭とあってはジョブ雇用にはフィットしにくいものです。
リモートワークの利用率も、ジョブ雇用のフィット感も、業界やエリア・規模によって異なります。まずは、リモート下でもメンバーの勤怠や業務進捗だけでなく、不安や不満の本音の部分も含めて現状把握することが必要でしょう。
下の表から読み解けるように、リモート下でも報告・連絡の量は対面とほぼ遜色がありません。しかし、雑談はもとより、Web会議が進んだとしても「相談」に関してかなり滞っていることがわかります。
うまく相談ができず、自己の判断で仕事を進めることはメンバーにとって不安材料になり、そうした不安感は、マネージャーの予想を上回るものではないでしょうか。
一方で、自律したメンバーを育成するといった意味合いでは、チャレンジングながらも好機であると考えられます。テレワーク下の不安の解消において有効な手立てとして、「フィードバックの短期化」を上げているマネージャーの方が多いように、こまめな面談が相談の場にもなっているようです。出社時に1on1を行っていたのであれば、テレワークだからこそ、その重要性は増しているはずです。まずは1on1の徹底と、1on1でのアジェンダの見直しから行ってみるのもいいでしょう。
ただし、人事担当の懸念点として、「ミドルマネジメント層への過重な負担」が上位に挙がっていることから、ミドルマネジメント層同士が支え合う社内外のコミュニティ作りや、アッパーマネジメント層、経営ボード層との連携も合わせて、マネージャー側のフォロー体制を整えていくことも忘れてはいけないでしょう。
桜庭 理奈
2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。