アルムナイ制度の利点と展望:離職と再雇用、そして組織の未来

組織開発 | アルムナイ制度は機能するの? - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)

アルムナイ制度が注目を浴びる理由

終身雇用制度の崩壊、それは、企業側ではなく雇用者側の決断で転職といった離職が進むことも意味します。欧米のように転職(起業を含む)でキャリアアップを図ることも多くなったため、社内での長期的な人材育成が難しくなってきているのが実情でしょう。加えて各々の仕事に、より専門性が求められるようになっているため、リファラル採用など、必要な人材の「決め打ち採用」がミスマッチを防ぎコストパフォーマンスが良いとされ、その方法が模索されています。

そんな中において、すでに自社での実績があり、社のフィロソフィなどにも一定の共感を得ていることが確実な”アルムナイ(OB/OG)”は、もっともミスマッチが起きにくい人材プールだと言えます。

再雇用はまだまだ人づて・縁故

従業員5,000人以上の大企業の20%強が公式の再入社制度を持っています。パーソル総合研究所 コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査によると、再入社した人の75%以上は人づてや縁故で入社しているといいます。元上司からの仲介であれ、同僚からの仲介であれ、在職者からのアプローチで入社している実情があり、組織的に退職者と関わりを持ち続けることは、再雇用の促進には有効だといえるでしょう。

再雇用できる人、組織とは

会社とのベクトルの違いで退職した人は、再雇用の対象にはなりにくいです。人間関係への不満で退職した人も、既存社員が丸ごと変わるわけではありませんし、一種のトラウマみたいなものもあるでしょうから、そもそもアルムナイ的システムに組み込まれることを避けようとするかもしれません。

一方で、ミッション・バリューに共感はしつつも、自身のキャリアやスキルの面で物足りなさやずれを感じて転職した人、もしくは家庭の事情で致し方なく退職した人であれば、再入社の意向も高めです。「隣の芝は青く見えたけど、いざ行ってみると元の芝がよかった」というのはよくあること。こういった人を「会社を見限った裏切り者」と捉えるのではなく、会社を超えて出向させる制度があるように、転職=外部での修行(研修)期間でスキルを磨いた人と思える組織・風土であれば出戻りもしやすく・受け入れやすいのではないでしょうか。出産・介護など家庭の事情での退職については、いつ戻ってきてもいい制度があってもいいかもしれません。

その人が対象となるか判断するためには、退職時の本気の慰留と、退職理由など本音をしっかり聞き出すことが重要です。また、再入社のほとんどが人づてということは、逆に自分を知った人がいないと再入社が難しいと思われている可能性もあります。人物評価を含め、対象者の知り合い(元上司や同僚など)以外でも、企業側が気軽に声をかけられ、雇用側も相談できるといった、採用の判断や手助けができるシステム運用が求められるでしょう。

再入社の弊害を回避するには?

再入社の最大の弊害は、現場のメンバーが納得しない場合、関係がギクシャクして業務に支障をきたす恐れがあることです。ただ、上司や同僚が外部から突然やってくるというのは出戻りでなくてもあり得る話なので、出戻り者の以前の評価が(特に人物評価)良くない場合が多いのです。これに対処するには、なぜ今会社がその人を必要としているのか?を現場にしっかりと説明する必要があります。場合によっては、なぜその人が退職したのか、当時の思いはどんなものだったのかも説明する必要があるでしょう。

逆に、再入社した側も出戻りであることから、公平に評価してもらえないのでは?との不安もあります。実際に、公平に評価できないという管理職も一定数いますし、待遇・報酬は再入社後の方が低い傾向もあります。これは、再離職の要因にもつながりかねないので、スタート時点の待遇は致し方ないとしても、昇給などの評価基準を明確にするなどして、不安を取り除く必要があります。

再入社した人は、再び雇用してもらえた感謝と恩返ししたいとの気持ちで、仕事へのモチベーションがかなり高いですし、必要なスキルを携えて入社しているので、しっかりとフォローすれば、貴重な人材になるはずです。

アルムナイ構築のメリットは再雇用だけではない

コスパの良い採用のための人材プールとして有益とされるアルムナイですが、いくつか構築メリットがあります。まずは再雇用、業務委託・発注先といった「協業」、ポジティブな評判の拡散、ネガティブな評判の抑制といった「ブランディング」、サービスや商品のファンといった「顧客」です。

どれか一つの目的ではなく、相互的に作用しますが、各企業の特色は出てくるようです。

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キャリア採用に積極的に活用(すかいらーく)

すかいらーくグループは、Come back社員として採用ページにて事例を紹介しています。グループの店舗数は多業態で多数あり、例えば配偶者の転勤などで退職した人が、転勤先の店舗で再雇用されるといった例もあります。またアルバイトから他企業を社員として経験して戻ってくるケースもあります。職場を離れても、客としてお店に通ったり、現役社員・アルバイトと友人関係として繋がりやすい環境もあるようです。

退職者をネットワーク化、協業の強化(リクルート、電通)

リクルートでは、公な制度ではないものの、退職を「卒業」、元従業員(契約・パート社員を含め)を「元リク」とよび、通称「帰ってこいよ制度」をかなり前から取り入れています。人材輩出企業とも言われる同社、退職者のネットワークは仕事においても、プライベートにおいてもかなり大きいものです。退職者にも希望すれば社内報が送付され、Facebook上には「MR会(もとりくのかい)」といったグループもあります。ただ、MR会は会社が媒介しているわけではなく、有志のネットワーク。出戻り社員もいますが、どちらかというと卒業後も有益に仕事上で繋がれるネットワークの色が濃いのが特徴です。

電通も2020年に「終身信頼」を目指し、独自のアルムナイネットワークを構築、業務パートナーとして関係性を続けていくことを前提に早期退職者を募りました。

コアなファンでもある退職者(スープストックトーキョー)

スープストックトーキョーでは、バーチャル社員証なるものを発行して、退職者でも現職者同様、割引サービスが受けられるなど、退職後も繋がりを持つシステムを構築しています。時には新商品の試食会を退職者対象に行うことも。これらのイベントは同窓会的な意味合いも持っていて、再雇用のケースはまだ少数ながらも、商品や会社へのエンゲージを退社してなお高いものにしています。

退職時と再入社時のコミュニケーションが肝!

一般的に言われるアルムナイのメリットは、採用のミスマッチを減らせることや、協業関係を構築できることですが、デメリットとしては、復帰する現場のメンバーが良く思わない、情報漏洩の危険性があることなどが挙げられます。また、再雇用を企業側から提示する場合は特に、その人が退職した時の面談などでネガティブな印象を与えていないか?が問題になってくるようです。調査によると、元の会社のサービスに対してはネガティブでなくても、会社に対してはネガティブに感じている割合がかなり高いのです。退職面談は人事部より上司が行った方が影響力が高く、「何を求めて辞めるのか」など退職理由に理解を示すとともに、「不満だったことは何か」「聞いておきたいこと、言っておきたいことはないか」など“心のうち”を丁寧に引き出すことで、ポジティブな印象を持って退職してもらえ、のちのアルムナイにも繋がっていきます。

逆に再雇用の時は、離れている間にどんな経験をして、どんな期待値で再入社してもらうのか?を明確にする必要があるでしょう。

退職することは「ネガティブ」なことではなく、お互いにとって「ポジティブ」なことであること、一度一緒に働いた者はその後も仲間であること、そして再雇用はその仲間と再び働けることという考えを浸透させるためには、普段から、キャリアのことを語り、仲間意識を高めるコミュニケーションが取れていることが大事ではないでしょうか。

特に新卒は「育ててもらった」恩義も感じていて、アルムナイの意識が高くなるといいます。また、学校の同窓会に積極的に出る人、学生時代からの交流を続けている人、社内の交流を積極的に行う人もアルムナイの意識が高いといいます。同期会や、現役を含めたOB/OG会、社内での呼応流会など、「母校」への愛よろしく「母社愛」を育める風土をいかに作るか。アルムナイは単なる名簿作成・運営ではなく、企業風土の醸成なのかもしれません。

桜庭 理奈

2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

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