心理的安全性とは?
Googleが自社のマネジメントに取り入れたとして注目を集めるようになった“心理的安全性”。
平たくいえば、「何を気にすることなく言いたいことが言える」状態のことですが、「心理的安全性のある組織」と聞くと“仲良し集団”などと捉えられるなど、根本を捉え違えているケースも散見されます。
忖度や根回し文化の根強い企業では「これを言ったら人間関係が…」とか、「自分の評価が」とか「ばかにされるのでは」といった不安が、発言の際に付きまとっているのではないでしょうか。
しかし、同じミッションを追う者同士、最善の道を考えた時に、慣例や常識を破った意見・行動が必要な場合もありますし、わからないものを「わからない」という必要だってあります。
そして、それは年次や役職に拘らずフラットな状態で、誰からも非難されることがないという確信=心理的安全性があってこそ実現されるものです。
どんな気づきでも否定されることがなく、トライ・アンド・エラーが行えるので学びの速度もあがり、チームの成長にも繋がっていきます。また、世代・役職を超えてコミュニケーションが活発になり、情報共有が容易になるといったメリットもあります。
心理的安全性の確立は個々の資質ではなく“チームの特徴”
心理的安全性の確立は、仲良しだから、ルールとして決めたからできるわけではありません。ルールで縛ってしまうと逆に、個々人の資質、例えば「ルールとはいえ、表向きだよね」と思ってしまうような人がいることによって、確立できないかもしれません。
チーム全体で心理的安全性が確保された状態を、“当然”と感じられ、「これを言ったら…」といった考えすら浮かばず意見できること。対立する意見や、厳しいフィードバックがあっても、遺恨を残さず「良い対話ができた」と思えるチームの雰囲気づくりが重要です。
結局のところ、心理的安全性を確立するためには個々へアプローチするのではなく、チームが持つべき物として、チーム全体へのアプローチが必要なのです。
心理的安全性研究の権威エドモンドソン教授(ハーバード大)はその著書の中で、以下のように述べています。
現在経済で私たちが価値を置くほぼ全てのものが、相互依存的な判断と行動――相互依存的であるがゆえに、効果的に協働しなければ成果の出ない判断と行動――から生まれている(中略)それは形式的で明確な境界のチームのなかではなく、むしろメンバーの組み合わせが刻々と変わる場で起きるのだ
そして、そのチームでもっとも効果的に協業するには心理的安全性が必要なのだと。
また、エドモンドソン教授は、心理的安全性は緊密に仕事をする人たちが同様に覚えるもので、それは人々の認識は共通の重要な経験から生まれるからだとしています。
価値あるものを生み出すには、チームとしての協業が必須。そして成果をあげるチームを構成する一員として、心理的安全性を阻害する個であってはならないし、確立できるようにチーム全体を持っていくことがリーダーに求められることでもあります。
チームの心理的安全性を測ってみる
では、今現在、自らのチームには心理的安全性が存在しているか?どれくらい浸透しているか?リーダーであれば、ことさら気になるところだと思います。
先にあげたエドモンドソン教授が提唱する7つの質問に答えることで、テストすることが可能です。
- チームの中でミスをすると、たいてい非難される。
- チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える。
- チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある。
- チームに対してリスクのある行動をしても安全である。
- チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい。
- チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない。
- チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる。
7つのうち、1、3、5のようなネガティブな質問に回答が多いチームは心理的安全性が低く、その他のポジティブな項目への回答が多いチームは心理的安全性が高いとされています。
また、心理的安全性はエンゲージメントと関連性が深く、エンゲージメントを測るテストを使うことで、チーム内での心理的安全性の度合いを測ることもできます。
エンゲージメントも昨今チームビルディング、組織改革などで注目されている概念で、解釈は多々あれ、組織内でいうと、個人(チームメンバー)が会社(組織)に愛着をもち、一体となって互いに成長しあい、絆を深められる関係のことをいいます。
エンゲージメントを測る代表的なテストにギャラップ社のQ12というのがあるので、一度試してみると良いでしょう。
心理的安全性はつくっていける
テストの結果はどうだったでしょうか?予想以上に心理的安全性が確立されておらず、ショックを受けたかもしれません。しかし、ないとわかれば作っていけばいいだけのこと。心理的安全性は意識すれば作っていけるのです。
心理的安全性が注目される元となったGoogleでは、心理的安全性を高めるために以下のようなマネージャーがすべきことを公開しています。
- 積極的な姿勢を示す
- 理解していることを示す
- 対人関係において相手を受け入れる姿勢を示す
- 意思決定において相手を受け入れる姿勢を示す
- 強情にならない範囲で自信や信念を持つ
それぞれの項目についてさらに細かな行動が書かれているので、まずはその行動指針に沿って、メンバーに接してみましょう。
心理的安全性を高めるためにGoogleが行っていること
上記のマネージャーの行動指針を実行するためと、個人間の関係を深めるために行われているのが、1対1ミーティング(1on1)とピアボーナスです。
Googleでは調査により、評価の高いマネージャーは優秀なコーチであることがわかっていて、コーチングの記事でも紹介したように、1対1ミーティング(1on1)が推奨されています。また評価の高いマネージャーほど頻繁に行っているそうです。効果的な1対1ミーティングの実施方法も公開されています。
- 毎週または隔週で30分〜1時間、決まった時間に、オフィスの外で行う
- 開始時刻と終了時刻を守る
- アジェンダをマネージャー、チームメンバー双方が関わって作成する
- できるだけアジェンダに従う
- ミーティングに集中する
- 「これまでにしていないことで、私にできることはありますか?」「もっとうまく、あるいは頻繁に行った方がいいことはありますか」などマネージャー自らが改善フィードバックを求める
- 「他になにかありますか」と尋ねる(一部要約)
などといったことです。
また、ピアボーナスは、見落とされてきた優れたアイデア、特に新入社員のアイデアが、経験豊富な社員との繋がりで光があたり、イノベーションを起こしてきたことを踏まえ、部門間の繋がりを奨励するために行われています。社員が別の部門の社員の貢献を互いのマネージャー承認を得た上で、少額のボーナスを贈り合います。これには感謝のメッセージも添えられます。似たようなことが他社からサービスとしてリリースされていることからも、組織内で互いに感謝を伝え合うことの有用性がわかります。
根本にあるのは相互信頼
人間なのだから相性の悪い人はいます。どちらかというと嫌いな部類の人もいるかもしれません。そして、そんな人が同じチームにいる可能性だってもちろんあります。しかし、先に書いたように、昨今、価値がおけることはほぼ全て、人との関わりから生まれています。それが個々に自覚できていて、人としての好き嫌いはさておき、チームの一員として「仕事においては信頼できる」といった相互信頼があれば、心理的安全性を確立し、互いに成長していける環境がつくれるのではないでしょうか。
桜庭 理奈
2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。