各自がオーナーシップをもち、主体的に動くチームを構築

株式会社アサヒ商会

約100人

オフィス用品販売業

導入の背景

成長する組織・従業員のマネジメントと、それに対応する人事評価改革に課題

導入後の効果

幹部がコーチングを日常的に取り入れ、現場にオーナーシップの意識が芽生える

導入の背景

株式会社アサヒ商会は、群馬県を中心に大型文具専門店を展開し、また法人向けに文具・オフィス用品から、IT/OA機器の販売・保守、オフィス空間づくりなど、オフィスに関わるあらゆるコト・モノを通じて、人と企業の豊かで楽しいライフ&ワークを提供している企業です。

代表取締役を務める廣瀬一成さんは、3代目として事業を継いで以降、落ち込んでいた売上の回復を成し遂げられた一方で、30人程度から100人規模へと増えた従業員のマネジメントに大変苦労されていました。人事評価制度を作ろうと外部パートナーを探すも、落とし込みまでが実現できず、悩んでいた際に出会ったのが株式会社サーキュレーションの佐藤真也さんでした。

課題を抱える企業に対し、最適な「プロ人材」とのプロジェクトをアレンジするサーキュレーションの佐藤さんが提案した中から、廣瀬さんが選んだのが、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭でした。

100人規模のマネジメントに必要不可欠なもの、そこへ行き着くまでに廣瀬さんが得たもの、逆に手放したものとは――?サーキュレーションの佐藤さんを交え、廣瀬さんと桜庭で鼎談を行いました。

廣瀬一成さん

目の届く範囲はもう限界…評価制度が不可欠だと実感

(左から)株式会社サーキュレーション 佐藤真也さん、株式会社アサヒ商会 代表取締役 廣瀬一成さん、35 CoCreation CEO 桜庭理奈

課題を抱える企業に対し、最適な「プロ人材」とのプロジェクトをアレンジするサーキュレーションの佐藤さんが提案した中から、廣瀬さんが選んだのが、35 CoCreation(サンゴ コ・クリエーション)CEOの桜庭でした。

──まず、廣瀬さんがサーキュレーション様へご依頼されるに至った当時の課題や、桜庭を選んだ理由についてお聞かせいただけますか?

株式会社アサヒ商会 代表取締役 廣瀬一成さん(以下、廣瀬) アサヒ商会は75年前、祖父が高崎で起こした会社で、戦後の復興期に需要のあった文具や測量用品などを扱うことから始まりました。その後、需要の変化や物自体の進化に伴い、取り扱う商品やサービスの領域が広がっていき、現在はBtoB、BtoC問わず文具・オフィス全般に関わるサービスを展開しています。

私自身は航空貨物の会社の営業を経て、13年ほど前に入社しました。1990年頃のピークに比べて売上が半減していた頃でしたが、事業の転換や様々な取り組みにより、無事に業績を回復させることができました。しかし一方で、30人そこそこだった社員数もアルバイトを含め100人規模へと成長し、人材育成や組織運営の観点から人事評価制度の必要性が浮上してきたのです。

とはいえ、実際どのようにすればいいのか悩みました。というのも、会社員時代にも人事評価制度はあったのですが、正直あまり腑に落ちていませんでしたし、何より私自身が評価によって仕事へのモチベーションが左右されるタイプではなかったこともあり、どのような制度を策定すればよいのかイメージが湧かなかったのです。

そこで、外部のプロ人材に依頼しようとサービスを試してみたのですが、実例を提示されるばかりで、なかなか実際の評価制度への落とし込みにはたどり着きませんでした。サーキュレーション様を知ったのは、ちょうどその頃ですね。早速ご相談し、何人かの候補を挙げていただきました。

桜庭さんについては、「プロフィールがすごく面白い!」と直感的に思いました。独立される前に勤められていたGEヘルスケア・ジャパンでの取り組みなどもお聞きしたかったですし、何より、桜庭さんはこれまでに“出来上がっていない組織”のサポートに関わられていたことが決め手でした。

急がば回れ。急務の制度策定前に行ったこと

35 CoCreation CEO 桜庭理奈(以下、桜庭) 初めて廣瀬さんにお会いした際に、「社員数が100人を超えてくると社員の一人ひとりまで目を配ることが難しく、どうにも手が回らなくなってきた」、「社長が不在でも、私の考えを社員が汲み取って主体的に動いてもらえないとそろそろ難しい」とおっしゃっていたと記憶しています。廣瀬さんは、その当時どのような心理状態だったのか覚えていらっしゃいますか?

廣瀬 「社長1対、社員99」のような状態でしたね。私は懸命に市場の価値や本人の成長を願って厳しく評価しようとしているのに対し、幹部は自分のかわいい部下を高く評価させようとする、そのせめぎ合いみたいな感じですね。それに対して、私は幹部の考えが甘いばかりに自部門最適になっていると、不満を持っていました。

もちろん、幹部の目線が間違っているわけではないと思いますが、見ているものやゴールが違うので、どうしても腑に落ちない面がありました。

桜庭 そのお気持ちを表したことがないとのことだったので、まずはリーダーに対して、廣瀬さんの本音を話す機会を作ったのでしたね。

廣瀬 はい、そうです。それまでは弱みは出さず、良い所だけを見せていたんですよね。そのくせ、リーダーとメンバーとの関わり方にも同じようなところが見受けられると、「もっとオープンマインドでやればいいのに」と思ったりもしていました。自分のことは棚に上げてね(笑)。でも、制度作りにあたっては、実際に制度を運用していくリーダーたちにその背景や価値を共有し、理解してもらわないと実効性のないものになってしまうと思いました。桜庭さんからも、まずは自分とリーダーとの関係作りが必要だと教えられ、自分の気持ちを伝えることから始めました。

桜庭 実際、リーダーたちは「なんで集められたの?」と思っていたでしょうね(笑)。

廣瀬 上手いファシリテーターがいないと誹謗大会になってしまうのではないかと、初めは怖くて仕方なかったですが、腹をくくると面白く思えてきました。実際、普段の会話では話さないことが聞けて、お互いに表面しか見ていなかったことを実感しました。思っていた以上に、リーダーたちは部下や会社のことを真剣に考えてくれていることがわかりました。

桜庭 制度策定の意義を話すとともに、存在意義の話をした時ですよね。皆で作っていきたい人物像を描いてみるなどの流れから、廣瀬さんもリーダーたちもお互いに表面しか見ていなかったことに気づかれましたね。リーダーも「そういう文脈でああいう指示だったのですね。社長は社長で色々考えていらしたのですね」とおっしゃっていました。

自分たちで考え作ったからこそ、修正もできる

──関係作りや文脈の共有後、実際に制度作りに入られてからはどのように進めていかれたのでしょうか?

廣瀬 桜庭さんとのセッションが始まる前は「評価システムとはこうです」という説明があったので、そこから詳細を具体化していくのかな、と思っていました。しかし、実際は想像とは全く違って、考えさせられることばかりでした。「どうしようと思っているのですか?」などの質問をたくさんもらい、やたらボールを持たされる(笑)。

ボールを持たされたからこそ、何が大事なのか、何を評価項目にするのかなど、現場の部門長と話して実情に則して作ることができました。先の研修で制度を作る意図も共有できていたので、運用フェーズで問題が生じても、作った時に考えていたことに立ち戻って、「大事なことはこれだから、ここは変えずに、こっちを変更すればいい」と、自分達で修正できるのです。パッケージをそのままカスタマイズして運用していたら、できなかったことだと思います。

桜庭 しっかり自走されているのですね。佐藤さんにお伺いしたいのですが、人事評価の策定に関するご依頼のケースで、プロ人材がいなくなった後は皆さんで自走できるものなのでしょうか。あるいは、運用に移行した後に再度プロ人材が必要になることもあるのでしょうか?

株式会社サーキュレーション 佐藤真也さん(以下、佐藤) 人事制度は評価に関わらず領域が広いので、どの段階でプロ人材に入ってもらうかによっても違います。しかし、基本的には制度を策定し組織におろして終わりではなく、実際に運用し始めるところまで関わってもらうようにしています。

個々がオーナーシップを持てば、経営者が経営者としての時間を持てる

廣瀬 制度を作ったのはいいものの、しっかり運用できるかどうか不安もありましたが、当初は自分が面談しなければならないことに、「どうしよう」「難しい」と言っていたリーダーたちでしたが、今では日常ベースに落とせていると思います。またそれを通じて、評価にはどうしても主観や曖昧さが残ってしまうことについて、幹部陣にも理解が進み、評価する覚悟が身に付いたことも大きいですね。

桜庭 お話を伺っていると、キーワードはオーナーシップなのかなと思います。かつては1対99のような構造だったのが、実際に面談などを行い制度を運用していくことで、徐々に各自がオーナーシップを持って取り組めるようにシフトしていったのでしょうね。

廣瀬 そうですね。私が最終的な判断をしなければならないことはもちろんありますが、かなり現場に責任をおろせるようになったと思います。すると、今までよりリーダー陣から相談を受けることも多くなりました。そこでの判断や意思決定の案に、あれっと思うこともありますが、それが私の考えと違っていても、よくよく話を聞いてみると、なるほどと思えることがたくさんあることもよくわかりました。たとえ、小さな意思決定にズレがあっても、意図が同じ方向であれば、それほど大きな問題はありません。足りない情報をちょっと加えれば、ちゃんと自ら修正して、適切な判断に近づいてくれます。

勇気をもって幹部を信頼することで、それによって今後の方向性など会社経営の根幹にかかわることに時間を使えるようになってきました。これが、経営者としての本来の仕事であり、あるべき形だと思っています。人をあまり信頼できなかった頃は、自分で多くの仕事を抱えてしまっていましたから。

桜庭 逆に手放したと思われることは何ですか?

廣瀬 何でも自分に相談してくれる気持ち良さでしょうか(笑)。

思いが組織を変える。人が育つ会社の条件

──今回、かなりボールを持たされる形での制度策定でしたが、全体を振り返ってどのように思われますか?また、このような手法はどういった会社・組織に向いていると思われますか?

廣瀬 桜庭さんには人事評価制度の策定に始まり、さらに幹部とのコミュニケーションの円滑化や組織開発、中間管理職のリーダーシップの推進をサポートいただきました。

私の理想は、現場でいろいろなアイデアが出て自らチャレンジするような組織です。その方が楽しいですし、人が育つ会社になれば経営にも大きなやりがいを感じます。当初は、ベクトルがズレてしまうリスクがあるため、なかなか手放せませんでしたが、弊社では、コーチングを通じた制度の策定は幹部を育てる良いきっかけとなりました。「コーチングで学ぶ“対話”を常日頃から短時間でも取り入れるべき」だと幹部が共通認識として持てるようになったことで、現場にもオーナーシップの意識が芽生えていると感じます。

桜庭 先ほどもオーナーシップがキーワードと言いましたが、その課題は誰のボールなのか?が分らないと課題解決は難しいですよね。

廣瀬 実は、先日行った社内アンケートで面白いことがありました。とあるメンバーから「上司の言っている事とその上が言っていることが違うことがあり、やりにくい」という意見が出たのです。私は「自分と幹部のことだな」と思いましたが、何と幹部は「自分と自分の部下のことだ」と思っていました。しかも一人だけではなく全ての部署で、「これってウチらのことだよね」と捉えていたのです。まさしく、オーナーシップの現れですよね。

桜庭 とても良い傾向ですね。

廣瀬 長期的に見て進めていかなければならないステップもまだまだありますが、着実に人は育ってきていると思います。桜庭さんのコーチングは、私がそうだったように、人が育つ組織にしたいけれど、実際は社長に全て集約されてしまっていてどうしてよいのか分からない、といった会社に向いていると思いますね。

桜庭 そこに社長の“想い”があることが重要ですよね。佐藤さんはどう思われますか?

佐藤 社長に会社を良くしたい・変えたい思いはあるけれどどうすればいいのかわからなかったり、現場とのコミュニケーションに悩んだりしている会社様には、桜庭さんの伴走型のコーチングが非常に効果的だと思います。

編集後記(桜庭)

今回の廣瀬さんとのインタビューを通して、「思いが組織を創り・育てる」ということを、文字通り体現されたお話をお伺いすることができました。時に昨今では「失敗を許容する文化」「心理的に安全性の高い文化」を作ることが、組織開発の目的として声高に言われるようになりました。その原点の理由とも深くつながる本質論を、アサヒ商会様との伴走ストーリーから発信できたと感じています。経営者1人がオーナーシップを持っているところから、様々な手放すプロセスを経て、各事業部長やマネージャーの皆さんが各自が自律的に動き始めることで、さらに自信につながり、権限移譲が進むご様子をお伺いして、胸が熱くなりました。

廣瀬一成さんプロフィール

大学卒業後、航空貨物の企業で営業経験を積む。2009年に祖父が創業した株式会社アサヒ商会の三代目として代表取締役に就任。自社の原点である「文具」に立ち返る新たな事業展開で、業績を拡大。現在はITツールやクラウドツールなども「デジタル時代の文具」と捉え、オフィスにまつわる様々なサービスを提供している。

聞き手・執筆/大倉 奈津子

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