一社で長く働くことが「正解」でも「当たり前」でもなくなった今、キャリアの描き方は多種多様になりました。岐路に立つ機会が多い時代だからこそ、「何を基準に、どう人生を泳いだらいいのか」が分からないビジネスパーソンも多いのでは?
ソフトバンクで採用・人材開発統括部 統括部長を務める足立竜治さんは「迷ったら大変なほう」「なんとかなる精神」で歩んできたそうです。足立さん流「キャリアの波に乗るコツ」をお伝えします。
人事を目指してきたわけではない “偶然キャリア”
35 CoCreation合同会社CEO 桜庭 理奈(以下、桜庭):足立さんはソフトバンクで、人事の役職を歴任されてきました。もともと人事を目指してきたのですか?
ソフトバンク 採用・人材開発統括部 統括部長 足立竜治さん:いえ、まったく違うのです。私のような人間が今の立場にあるのは、恐縮するばかりです。運やご縁に恵まれて今があると思っています。
学生時代に志したのはパイロットでした。ところが、就職氷河期で、航空各社の採用は凍結。しかたがないので1年間、カナダで過ごしました。今振り返れば、ギャップイヤーだったのだと思います。
桜庭:良い経験だったのですね。
足立:なにより、多様な価値観に触れたのが貴重な学びで。自分と他人では、ものの見方が違うのは当たり前。そう捉えるようになったのは大きかったですね。
桜庭:きっと自然と身につけられたのですね。帰国後はパイロット選考に?
足立:はい。ですが、最終面接の一つ手前、健康診断で不合格になってしまって。パイロット一本で考えていましたから、当然他の選択肢はありません。どうしようかと思いましたが、通信業界が伸びるのではと、国際通信の会社で営業職に就きました。
ところが入社した年、会社が買収されるのです。私が配属された支店では、国際通信の出身は私一人。他店の先輩に電話で聞きながら、なんとかお客さまと接していました。このとき、お客さまの声を真に聞くように努力したのは、キャリアとして大事だったと思います。
桜庭:大変な中に、学びがあったのですね。
足立:そうです。その後、会社がソリューションエンジニアの育成を始めたので、私も手を挙げてゼロから学びました。当時は、一生の仕事にするつもりだったんです。ところが数年後、声がかかります。「1年間のレンタル移籍で人事に行ってほしい」と。1年だったはずなんですけどね、もう15年が経ちました(笑)。つくづく偶然に導かれるキャリア…“偶キャリ”だと思います。
自由演技できるロジカルな世界 人事の面白さに目覚める
桜庭:人事に偶然たどり着いて15年。足立さんにとって人事は面白いお仕事ですか?
足立:こんなに面白いものはありません。異動から半年経った頃に気づいたのです。自由演技できるロジカルな世界だと。仮説を立て、正解らしいものを信じ、形にしていく。エンジニアや営業とは違う、答えのない面白さです。
桜庭:答えがないからこそ、ロジックを用意して臨めば、余白は無限大だと思ったのですね。「自由演技でロジカル」なお仕事で、何が印象に残っていますか?
足立:新規事業の提案制度です。同様の制度があるリクルート出身の上司からヒントをもらって、取り組みました。最終的には好評でしたが、かなり試行錯誤しまして。その過程は「人事とはこうあるべき」という凝り固まった意識を解放する経験だったと思います。
桜庭:凝り固まった意識を解放する。大切なメッセージです。
足立:最初は、会議室で話してもアイデアが出なくて。当時の本社は浜離宮庭園の隣にあったので、煮詰まったら、みんなで庭園に行ったんです。浜離宮の頭文字から「H会議室」と呼んで(笑)。意外と良いんですよね。
桜庭:わかります。凝り固まった意識を変えるための習慣がある気がします。足立さんも身につけていそうです。
足立:偉そうなことは言えないですが、私は自信がないので、自分の考えが絶対だと思わないのです。客観的に見るように心がけています。これはエンジニアのときの上司の影響でもあります。「仕事は『やって終わり』ではない。その完成度を客観的に確認して、初めて完結するんだ」と言われ続けていたので。
桜庭:一歩引いて大きな視野で捉える習慣が、今も活かされているのですね。
キャリアの岐路に立つとき、「迷ったら大変なほう」
桜庭:足立さんは人事の中でも様々なキャリアを踏んでいますよね?
足立:今年度から採用と人材開発の責任者になり、給与を除く人事の全分野を経験したことになります。初めは制度人事で、3社統合でソフトバンクが拡大した当時、制度統合や文化合わせをしていました。その後、スプリント買収にあたり新設されたグローバル人事の部長として3年間。その後、HRBP(HRビジネスパートナー)を5年間やってきました。
桜庭:岐路に立つときに、足立さんは何を考えますか?
足立:私がいつも決めているのは「迷ったら大変なほうを選ぶ」。「大変なほう」とは、「努力しないと届かないほう」です。根がズボラなんですよね。だから、自分を叱咤激励するためにも、大変なほうを。振り返ったときに充実感がありますしね。
桜庭:自分が伸びていくほうなんですね。これまでのキャリアを振り返って、足立さんはご自身をどういう方だと思いますか?
足立:私は自由人だと思います。
桜庭:自由人とは……?
足立:能天気かもしれませんが、なしたいと思えばなせる、と信じているんです。言い換えれば、ケセラセラの精神。自分も周りの方々も可能性は無限大で、必ずなんとかなります。そう思う雰囲気は周りに伝わっているように感じます。チームメンバーにも「やってみよう」と思ってもらえているのではないかと。自分で言うのは恥ずかしいですけど、「足立さんと働くと楽しい」と言ってもらえることが多くて。
桜庭:素晴らしいですね! 「なんとかなる」と思うのは、根拠があるのですか?
足立:特にないんですけど(笑)。ただ、自分は運がいいんです。小さい頃から「なんかツイてるな〜」と思っていました。そう思っているだけで、良い方に転がっていくのではないかなと信じているんです。
不確実な時代に、“なんとかなる”精神で自分の豊かさを広げる
桜庭:なるほど。それが足立さんの秘訣なんですね。一方で、「なんとかなる!」と思えない人もいると思います。そういう方にアドバイスするとしたら、足立さんは何を伝えますか?
足立:私なんかが恐縮ですけど、お話させていただくとしたら……。小さなことを成し遂げるのは、第一歩になるのではないですか? 何かひとつのことを一心に突き詰めてみるのはどうでしょうか。目の前のことを一つひとつ成し遂げると、次のご縁は生まれてきますから。
桜庭:スモールステップで自信をつける、と。
足立:そうです。どんなに時代が変わっても、人間は、人と人との関係で生きています。仕事は信頼関係です。信頼は一足飛びに生まれませんから、一つひとつやり遂げることから。古臭いですけどね。
桜庭:いえ、今は、基本的なことに戻るのが大事な時代だと思います。最後に、足立さん流、人生を泳ぐコツを教えてください。
足立:私自身、この先のシニア時代にどう生きようかと考えているのですが、人生100年時代には、世の中に価値を提供し続ける自信が必要だと思います。そのためには、成長し続ける意志を、いくつになっても持ち続けるのが大事ではないでしょうか。周りの先輩方を見ても、そうだと思います。
あとは、ライフとワークどちらも同じくらい楽しむことですね。仕事の環境はどうなるかわからないですし、流されるしかない部分もあります。でも、せっかくの人生、豊かにしないと楽しくありませんから。ライフとワークのバランスをとりながら生きると、VUCAの時代は波に乗りやすいのではないでしょうか。
桜庭:成長にワクワクすること、仕事だけでなく自分自身の豊かさを広げていくこと。新しい時代では、自分の魅力を開発し続けるのが必要なのかなと感じました。
足立:おっしゃるとおりですね。それは循環すると思います。私はトライアスロンをやっていますが、会社とは別のコミュニティに属すると、双方向に影響があると実感しています。
桜庭:生きやすくなる気がしますね。私も同感です。今日はありがとうございました。
編集後記(桜庭)
足立さんとはあるパネルディスカッションで、登壇者としてご一緒させていただきました。その時から、「この方は運に味方されるチャーム(魅力)を持ち合わせた方だな」という印象を持っていましたが、今回のインタビューで改めて確信に変わりました。特に根がズボラなので、だからこそ自分を叱咤激励するためにも、大変な方を選んで突き進むというのは、清々しいお言葉でした。不確実性が高まる時代だからこそ、思考だけで解決するのではなく、まだ決まっていない「余白」を「なんとかなる」精神で楽しんでしまう足立さんの姿勢に、自然と笑顔がこぼれました。決められていないからこそ、自分に選択する余白があるということを教えていただきました。