ヒューマン・キャピタル・マネジメント:「森を見すぎて木を見ず」に要注意

ヒューマン・キャピタル・マネジメント:「森を見すぎて木を見ず」に要注意

本記事は、KEIEISHA TERRACE連載:戦略HRBPから見た、人・組織・事業・経営の現在&これから 第3回 「森を見すぎて木を見ず」に要注意:ヒューマン・キャピタル・マネジメント編より転載を行っております。*


先週末は伊豆大島へ行きました。実のところ、私はダイビングインストラクターの卵なのです。昨年10月からすっかり間が空いてしまったインストラクター開発コースの続きをするために、伊豆大島へ向かったのでした。

久しぶりの伊豆大島の海況は大荒れ。波がじゃぶじゃぶ、エントリー(入水)の足元もぐらつきます。体幹を意識して周りの環境にも目を配り、バディ(一緒に潜る相棒)にも目で合図をしてお互いを見守ります。

元々は目的地にいるハコフグを見に行く予定でしたが、途中でチームメンバーたちに目を向けてみると、度重なるウネリと視界を阻む真っ白な気泡に緊張と不安の面持ちで、ロープにつかまっているのがやっとの様子でした。

リードしていたインストラクターと目配せをして、皆の疲労感と緊張感をこのまま継続させた場合のリスクを鑑みて、途中で引き返すことを決めました。

ハコフグを見に行くという目的は果たせませんでしたが、全員ひとりもはぐれることなく帰還することができ、皆で目や表情、身振り手振りのシグナルでいつも以上にコミュニケーションを交わしながら戻って来たときには、潜る前のチームとは異なる次元での連帯感と一体感、信頼感を醸成したチームになっていました。

そのあと皆で食べたご飯に、いつも以上に充足感があったのは、単にお腹がいっぱいになっただけではなさそうです。

これが正解という方程式がなかなか出しづらい状況に思うこと

最近のニュースを拝見していると、残念なことに多くの企業が、すべてのチームメンバーに対して、安定的な雇用環境を継続していくことが難しい状況に直面していることがわかります。

同時に、この時代の波に影響を受け、今勤めている企業から、自分の意に反して離れることを決断する人もいます。企業にとっても、チームメンバーにとっても、頭を悩ます状況です。

また、経営者にとっては、コロナ禍による業績悪化や回復の兆しが明確に見え切らない中で、現在の人的リソースを現状維持しながら回復を遂げることは難しいと判断して、断腸の思いで行動を起こすものの、何が本当の正解であるか、と問われると100%の自信を持って答えられる人は、どれだけいるでしょうか。

あとで振り返って、ああすべきだった、こうすべきだった、ということの考察は述べられるでしょうが、今、ここで、すぐに決断を迫られて答えを出し実行していくものの中には、当然不確定要素も少なからず介在します。

先行きが見通せない海況で、皆一丸となって船を漕ぐことの難しさとモヤモヤ

現場を預かる管理職やマネジャーにとっては、そのような状況を受けての厳しい経営判断に従って、自分のチームのダウンサイジング(縮小)や、チームメンバーの職責を広げる、変更して新しい分野にチャレンジしてもらう、といった類のコミュニケーションを、部下のチームメンバーに対して納得のいくように話を重ねていくことに、ある程度ストレスを感じ、胸を痛めることもあると思います。

自分自身もそのような立場や状況に幾度となく対峙し、向き合い、可能な限り真摯に相手に話をすることを重ねてきたからこそ、難しい決断をする経営者と、現場を預かるマネジャーの苦悩の両方がよくわかるのです。

今回のようなコロナという想定外で、今後の予測が難しい環境下で、現在置かれている経営状況を鑑みれば、このままの人的リソースを維持することは不可能であることは頭ではわかっていても、そこに対する説明責任をしっかりと果たすほどのロジックが提示できなければ、経営者としてもマネジャーとしても、組織存続と次の成長につながる組織体がどうあるべきなのかについて、ベクトル合わせが難しくなるもの事実です。

今からでも遅くない:次の波に備えてリーダーやマネジャーがチームと共にやれること

前回のコラムでは、WHY(なぜ)に立ち戻って、企業としての存在意義やそこに対して各々のチームメンバーやリーダーが、自らの志と組織の志とが繋がっていることを、まめに確認し合う場を作ることの大切さに触れました。

今日は、こういった不測の事態になってから慌てることで、経営者にとっても、マネジャーやチームメンバーにとっても、いきなりやってきたような波のじゃぶじゃぶ感と、ウネリを目の当たりにしてショックを与えてしまうことなく、日ごろから組織単位で準備を進めておきませんか、というご提案です。

「今まさに波に飲まれてしまいそう!手遅れなのか」と思われた方、ご安心を。そんな時こそ手足をバタバタさせずに、顔を水面に出しましょう。深くひと呼吸。息が整いましたか。さあ、次に打つ手を見てみましょう。

1.チームの営みを、いつでも透明性をもって説明できるような状態を作る

下の風刺画を見てください。

第3回 「森を見すぎて木を見ず」に要注意:ヒューマン・キャピタル・マネジメント編 - 35 CoCreation (サンゴ コ・クリエーション)コラム

「どうしてなんだ。これだけ予算や人件費もカットしたのに、船は一向に速く進まないじゃないか」

市場の流れや競合の動き、今回のように時代の行く先をダイナミックに変えてしまう岐路などによって、企業の経営状況が変わることは珍しいことではありません。

机上での予算や人件費カットを協議して実行に移すのではなく、まずは現状把握というステップを踏む必要があることは、経営者や人事に携わる方であれば、言わずもがなだと思います。ただし、いざ現状把握をしようと思っても、常日頃からチームメンバーの営みをマネジャーやリーダーたちが把握していなければ、スピーディにアクションを取ることが躊躇われます。

また、アクションを取ったとしても、必要以上の退職者を出すこととなり、結果事業を継続していくだけに必要なリソースさえもなくなってしまい、決断実行を下す前よりもスピードや効率が下がり、結果を出しづらい状況に陥るリスクもあります。

2.チームの能力やキャパシティ(余裕)を把握し、日ごろから成長を促す対話をする

それでも自分のチームのサイズを縮小することが求められる、または、今のチームメンバーには、これまでと異なる職務に就いてもらう必要がある、異動を伴う職責の変更がある、など、そういった状況に置かれるメンバーにメッセージを伝える立場にある、リーダーやマネジャーは、どうすれば自分の中で腹落ちさせて、自分の言葉で相手に伝えられるでしょうか。

これまで多くの経営者、リーダーと共に歩んできましたが、タフなシーンにあっても、信頼関係を失わずに、真摯に対話を重ねられる人に共通している特徴がいくつかあります。

そのひとつは、日ごろからチームメンバーに対して、パフォーマンスに関するフィードバックをタイムリーに行い、期待するアウトプットに対しての差分を明確に握り合い、日ごろからチームメンバーの成長をどのように促し、どのように自分がそれを支援することができるかについて、対話する時間と手間を惜しまないことです。

もうひとつは、日ごろから「ストレート・トーク」:耳障りのよいことだけではなく、その人の成長を真摯に考えるからこそ、現況のあるがままを相手に伝えることで、建設的な衝突さえも恐れない対話をチームメンバーとしていることです。

3.チームが事業の達成目標に対して、価値を創出する仕事に取り組んでいる状況を作り続ける

私がこれまで関わってきた企業が、組織を筋肉質にして次のジャンプに備える取り組みをする際に、まず業務の棚卸しで着目するポイントがあります。

そのひとつが、「それぞれの仕事が事業の達成目標に対して、どのくらい価値を創出する仕事であるのか、否か」です。

その「価値」というのは、顧客が感じている課題を解決するサービスやプロダクトの開発を通じて、他社とどのような差別化を打ち出していくか、成長戦略をどの柱で支えて実現していくか、ということに応じて変化していきます。常に流動的だ、ということは覚えておくべきポイントです。

以前は価値のある仕事だと評価を受けたものも、時代に合わせた価値を創出する人材の「OSのアップデート」は必須です。

チームを預かるリーダーやマネジャーは、価値ある仕事の棚卸しと、場合によっては捨てるべき仕事をどうして捨てるべきなのかをチームに伝え共通認識を持ってもらいます。

その上で、各自が新しい価値を創造すべく進化するのに必要なスキルやマインドセットを身に着けていくことで成長し、組織からも必要とされるプロ集団を作っておくことが、いざとなった時には、チームメンバーの雇用を守るロジックに繋がります。

桜庭 理奈

2020年に35 CoCreation合同会社を設立。経営・組織・リーダーシップ開発コーチング、講演活動を通して、多様なステージにある企業や経営者を支援している。

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